「送ったのに、届いていない」——メールが届かない時代に、小さなオフィスができること

・事務局から会員全員へ一斉にメールで通知を出したところ、数名にだけ届かなかった。
・見積書を送ったのに返事がなく、後で聞いたら相手の迷惑メールフォルダに入っていた。
・予約確認のメールを自動で送っているはずなのに、お客様が「届いていない」とおっしゃる。

ここ数年、こうした相談が急に増えました。しかも厄介なのは、送った側には何のエラーも返ってこないことがあるという点です。送信済みフォルダには確かに記録がある。だから誰も気づかない。相手が返事をくれないのを「忙しいのだろう」と思ったまま、何日も過ぎてしまう。

「相手が読んでいない」のではなく「そもそも届いていない」。この違いは決定的です。

記事の内容

いま、メールの世界で何が起きているのか

メールは40年以上前に作られた仕組みです。当時は大学や研究機関など限られた人だけが使うネットワークで、「互いに信頼できる」という前提で動いていました。差出人を確認する仕組みがないまま世界中に広がった結果、誰もが開示者を偽装できる構造ができてしまいました。

この穴を突いたのが、取引先を装った詐欺メールです。被害が深刻化したことで、GmailやMicrosoftなどの受け取り側が、「本当にその会社から出たメールか、確かめてから配信する」という仕組みを強化するようになりました。

2024年以降、この検査が一斉に厳しくなりました。以前は多少の疑問があっても届いていたメールが、今は容赦なく拒否されます。

ルールが変わったのに、こちらの運用が昔のままだった——不達の多くは、これが原因です。

あなたのオフィスで、特に起きやすい3つの場面

場面1|メーリングリストと自動転送

メーリングリストとは、例えば「営業部の全員に一度にメールを送りたい」ときに、eigyou@company.co.jp というアドレス宛に送れば、自動的に全メンバーに届く仕組みです。

問題は、この「自動転送」の内部で起きていることです。

例えば、Aさんが eigyou@company.co.jp にメールを送ると、内部的には次のようなことが起きています:

  1. Aさんのメールソフトが、「Aさんの会社のサーバー経由で」メールを送る
  2. メーリングリストの管理サーバーがいったん受け取る
  3. 全メンバー宛に転送する

この「転送」のとき、メーリングリストによっては差出人の情報を書き換えずに送り直すものがあります。

すると、受け取る側のサーバーから見ると:

  • 「Aさんの会社のサーバーから送られたはず」
  • 「でも、実際に届いたメールはメーリングリストの管理サーバーから来ている」

という矛盾が起きます。これが「なりすまし」と区別がつかないため、拒否されてしまう——これが従来型メーリングリストで起きる問題です。

場面2|業務システムからの自動送信

予約システム、請求書発行システム、Webサイトの問い合わせフォーム。これらは多くの場合、自社ドメイン(yoyaku@example.jp など)を使って自動的にメールを送っています。

ところが、これらのシステムを「うちのメールを送信する正しいシステム」として事前に届け出できていないことが非常に多い。すると受け取る側には、他人が自社を騙っているようにしか見えません。

怖いのは、自分でメールを送っている自覚がないことです。予約確認が届いていなかったことに、お客様が来院されなかった日まで気づけない、ということが起こります。

場面3|独自ドメインを取ったまま、放置している

「ホームページを作ったときに、業者さんにドメインを取ってもらった」というケース。

ドメインは取得しただけでは何も設定されていません。「このドメインからのメールは正しい」という届け出をしていなければ、そのドメインからのメールはすべて拒否される可能性があります。設定した記憶がないなら、まず疑うべきはここです。

今日からすぐできる5つのこと

① まず「本当に届いているか」を確かめる

対策の前に、現状把握です。お金も専門知識もかかりません。

  • Gmail・Microsoft(Outlook.comなど)・携帯電話会社の3系統にテスト送信する
  • 届いた先で、受信トレイに入っているか確認する(迷惑メールフォルダはNG)
  • エラーメール(配信不能通知)を捨てない。誰が確認するかを決めておく

これだけで、今起きている問題の大部分が見えてきます。

② 自動送信しているシステムを洗い出す

予約、請求、問い合わせフォーム、メール配信サービス。差出人のメールアドレスが自社ドメインになっているシステムを、すべて書き出します。 これが対策の前提になります。

③ 自社ドメインの設定を業者に確認してもらう

ここは専門業者に依頼する領域です。自力で触ると、かえって全部のメールが止まりかねません。

依頼時の文言は、記事の最後まとめました。そのままコピーして使っていただけるかと思います。

④ メーリングリストサービスを乗り換える

残念ですが、従来型のメーリングリストは、仕組みそのものが今のなりすましチェックと相性が悪く、設定変更では直りません。

さくらインターネットのメーリングリストの場合、なりすましメールやフィッシング詐欺を防ぐためのメール認証の仕組みである「DMARC」に対応していないため、メンバーによっては送信エラーになってしまいます。

そこで最近ではSlackなどのチャットツールが人気になっています。しかし、メールベースでやり取りを行いたい、ということでメーリングリストの需要は根強いものがあります。

メーリングリストで「社外ネットワークでのメンバー同士の連絡共有」を複雑な設定なしに行うためには、現状ではGoogleグループがおススメです。

業者に頼むときの伝え方(そのまま使えます)

弊社ドメイン(example.co.jp)から送信するメールについて、SPF・DKIM・DMARC の設定状況を確認していただき、未設定であれば設定をお願いします。

あわせて、以下のシステムからも弊社ドメイン名義でメールを送信していますので、送信元として許可されるようご対応ください。 ・(予約システム名) ・(会計・請求システム名) ・(Webサイトの問い合わせフォーム) ・(メール配信サービス名)

なお DMARC は、まず「監視のみ」の設定から始めていただき、レポートを確認したうえで段階的に強めていく方針でお願いします。

最後の一文は必ず入れてください。 いきなり厳しい設定にすると、届け出漏れのあるシステムからのメールが全部届かなくなります。「監視のみ」から始めれば、まず現状が把握できます。漏れを洗い出してから厳しくすれば、事故は起きません。

まとめ:メールは「万能の連絡手段」ではなくなった

いまは過渡期の真っ最中です。メールはもう「送れば届く」道具ではありません。

用途適した手段
外部との1対1のやり取りメール(重要案件は電話・郵送を併用)
内部の連絡・情報共有チャットやグループウェア
会員・顧客への一斉通知差出人を統一した配信サービス、または会員ポータルへの掲示
確実に全員へ届ける必要があるものメール以外を必ず混ぜる

「全員に確実に届けたい」ものほど、メール以外の手段を組み合わせる。 これが、当面いちばん確実な考え方です。

チェックリスト

  •  3系統の宛先へテスト送信し、受信トレイに届くか確認した
  •  配信不能通知を誰が確認するか決めた
  •  自社ドメインの設定を業者に確認依頼した(「監視のみから」と明記)
  •  自社ドメインを使っている自動送信システムをすべて書き出した
  •  メーリングリストの今後の方針を決めた
  •  重要連絡を多重化するルールを決めた

まずは①のテスト送信だけでも、今日中にできます。

この記事を書いた人

情報環境コミュニケーションズ 代表
米国IT企業に12年間勤務ののち独立。
企業、団体のIT/AIコンサル、サポート、システム構築/管理、大学の招聘研究員として大規模調査の設計、集計の効率化、解析などを行っています。
最近では、生産性向上に寄与するAIの実装をサポートしています。
<著書>2008年〜2015年、テクニカルライターとして、週間アスキー、Ubuntuマガジン、Linux 100%, Mac 100%, Mr.PCなど多数のIT系雑誌に寄稿。

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