「オフィスのネットが遅い」を10G回線と200台対応ルーターで解決した話 ― クラスB設計とルーター選定のポイント

顧問先から「オフィスのネットが遅くて、みんな仕事にならない」というご相談をいただきました。話をお聞きすると、PCや複合機、ネットワークカメラなどを合わせると、200台以上の機器が同じネットワークに繋がっていることがわかりました。

それ以前に、回線が遅い。契約状況を調べていただくと320Mbps。CATVの同軸ケーブルによる接続なので減衰もありそうな状況。
そこで、まずはNURO Biz 10Gに切り替えていただくことに。

そこから先の「200台以上の環境をどう安定させるか」の設計に、いくつも判断のポイントがありました。
今回は実際に行った設計・構築の過程を、判断の理由も含めて解説します。同じように複合機や固定IP機器を多数抱えるオフィスで、回線切り替えやネットワーク再設計を検討している方の参考になれば幸いです。

記事の内容

課題の整理:なぜ「192.168.x.x」のままでは限界だったのか

家庭や小規模オフィスでよく使われる「192.168.x.x」(クラスCと呼ばれる帯域)は、1つのネットワークに接続できる機器が最大254台までという制限があります。

今回のオフィスでは、人数は少ないものの、PC・スマホ・複合機・NAS・ネットワークカメラなどを合わせると軽く200台を超える状況。加えて、既存のセキュリティ機器(Fortigate)のLANポートもすでに埋まっている状態で、単純に回線だけを10Gに切り替えても、機器側の構成がボトルネックになる状況でした。

そこでまず決めたのが、社内ネットワークを「172.16.0.0〜172.31.255.255」の範囲(クラスBと呼ばれる帯域)に移行することでした。1つのネットワークで最大65,534台まで接続できるため、200台規模はもちろん、将来の増設にも十分な余裕を持たせられます。

固定IP機器の確認

ネットワーク帯域を変えるとなると、複合機やNAS、Wi-Fiアクセスポイントなど、固定IPで運用している機器の設定をすべてのアドレス設定を書き換える必要があり、慎重に確認を行いました。

「172.16.0.2〜172.16.100.254」という広大なアドレスの中で、管理がしやすいアドレスを割り当てることに。アドレスの固定が必要な機器は全部で10台ほどなので、さほど大変ではありませんでした。

200台規模に耐えるルーターの選び方

「突然ネットが切れる」「特定のPCだけ通信エラーになる」といった原因の分かりにくいトラブルで、ご相談をいただいて訪問させていただくと、家庭用や小規模オフィス向けのルーターを使っている場合がほとんどです。

実は、ルーター選びで重要になるのが「NATセッション数」という指標です。パソコン1台がクラウドサービス(Microsoft 365やZoomなど)を使うだけで、数百単位のセッション(通信の通り道)を消費します。単純計算でも、

200台 × 300セッション = 60,000セッション

程度は必要になり、家庭用や小規模オフィス向けのルーターでは業務のピーク時にセッション数の上限に達し、「突然ネットが切れる」「特定のPCだけ通信エラーになる」というトラブルが発生しやすくなります。

今回は、10Gポートを備え、最大NATセッション数が20万件を超える法人向けルーターを候補に選定しました。
1Gポートまでしか対応しない機種では、そもそも10G回線の速度を活かせず、宝の持ち腐れになってしまうためです。
価格を抑えたい場合は海外メーカー製の高コストパフォーマンス機種、安定性・サポートを最優先する場合は国内メーカーのハイエンド機種、という選び方になります。候補としては以下の3機種に絞りました。

【圧倒的な高信頼・王道】ヤマハ(YAMAHA) 『RTX1300』

日本のビジネスネットワークで最も信頼されているヤマハのハイエンド有線ルーターです。

特徴: 10ギガ(10GbE)ポートを搭載しており、爆発的な通信量にも耐えられます。最大NATセッション数が「25万」と非常に多く、200台以上の端末が同時にクラウドサービス(Microsoft 365やZoomなど)を使ってもびくともしません。

こんな企業向け: 「とにかく業務中にネットが絶対に落ちてほしくない」「数年は買い替えたくない」という安定性重視の環境。

予算目安: 10万円台後半〜

今回はこちらのRTX1300を選定しました。

【コストと機能のバランス型】バッファロー(BUFFALO) 『VR-M2000』

学校(GIGAスクール)や中小企業での導入実績が多い、法人向けの有線VPNルーターです。

特徴: ヤマハ同様、最大NATセッション数「25万」を誇り、多台数接続に非常に強いです。価格がヤマハよりも抑えられており、企業の定番ルーターとして導入しやすいのが魅力です。オプションでUTM(セキュリティ機能)を追加することもできます。

こんな企業向け: 「信頼できる国内メーカーが良いけれど、予算は少し抑えたい」という環境。

予算目安: 5万〜8万円前後

【圧倒的コスパ&10G対応】TP-Link(ティーピーリンク) 『ER8411』

コストパフォーマンスに優れた、Omadaシリーズのエンタープライズ向け有線ルーターです。

特徴: 10Gポートを2つ搭載し、同時接続セッション数「23万」と超ハイスペックながら、海外メーカーならではの圧倒的な低価格を実現しています。ブラウザ上の管理画面(Omada SDN)も視覚的で使いやすいです。

こんな企業向け: 「予算は限られているが、10ギガ回線の速度をフルに活かせるハイスペックなルーターが欲しい」という環境。

予算目安: 4万〜5万円前後

セキュリティ機器(UTM)は「直列」に置く

もう一つ、見落とされがちなポイントが、既存のセキュリティ機器(UTM/FortiGateなど)の配置です。

回線とルーターの間に、セキュリティ機器を「並列(横並び)」に接続してしまうケースがありますが、これではセキュリティ機能(ウイルス遮断・Webフィルタリング・不正侵入防止など)がほとんど機能しません。理由はシンプルで、社内の通信がセキュリティ機器を経由せずに直接インターネットへ抜けてしまうためです。検問所を道路の脇に置いても、車はチェックを受けずに通り過ぎてしまうのと同じ構造です。

セキュリティ機能をきちんと働かせるには、

回線 → セキュリティ機器(UTM) → ルーター → 社内スイッチ

のように、すべての通信が必ずセキュリティ機器の中を通る「直列」配置にする必要があります。今回はこの直列配置を採用し、あわせてセキュリティ機器のポート不足も、回線とルーターの間に集約する一本道の構成にすることで解消しました。

まとめ

200台規模のオフィスネットワークを安定させる上で、今回押さえたポイントは次の3つです。

  1. クラスB(172.16.0.0/16)への移行で、将来の増設にも耐えるアドレス設計にする
  2. 既存の固定IP機器はIPアドレスをそのまま活かしつつ、サブネットマスクだけを合わせる
  3. ルーターは「NATセッション数」で選び、セキュリティ機器は必ず通信の「直列」上に置く

回線を10Gに切り替えるだけでは、多台数環境の課題は解決しません。既存資産との整合性やセキュリティ機器の配置まで含めて設計することで、初めて「速くて、落ちない」ネットワークになります。

この記事を書いた人

情報環境コミュニケーションズ 代表
米国IT企業に12年間勤務ののち独立。
企業、団体のIT/AIコンサル、サポート、システム構築/管理、大学の招聘研究員として大規模調査の設計、集計の効率化、解析などを行っています。
最近では、生産性向上に寄与するAIの実装をサポートしています。
<著書>2008年〜2015年、テクニカルライターとして、週間アスキー、Ubuntuマガジン、Linux 100%, Mac 100%, Mr.PCなど多数のIT系雑誌に寄稿。

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