弊社には無線LANが遅い、というご相談が数多く寄せられ、改善の対応をさせていただいているのですが、『無線LAN=WiFiが遅い、途切れるなど、不安定な時の傾向と対策』という記事にも書いたとおり、根本となる回線、ネットワーク環境そのものに問題がある場合が、実は一番多い状況です。その原因は大きく、1,回線側の問題、2,LANに接続している機器/配線/構成などの問題、に分けられます。もちろん両方が重なって原因となっている場合もあります。
原因について詳しく、そしてそれらの対応策について見ていきたいと思います。
1、回線側の問題
(1)光回線のプランのバリエーション
まずは、自社/ご自身で契約している回線の種別、プラン/タイプについて再確認しておきましょう。
NTTの場合、ホームページを見てもプラン/タイプが多数あり、東日本と西日本でも名称/タイプなどが異なったりして、複雑怪奇な状況です。また、名称がひところと変わってしまっていたりして、混乱してしまいます。
NTT東日本の場合、光フレッツについてまとめてみると、現状では大きく、以下の7タイプとなっているようです。
戸建て住居であれば、上記4~6の”ファミリー”タイプが利用できますが、ビルやマンションの個人オフィスや小規模オフィスの場合、現状では「7」のマンションタイプを利用している方が多いことでしょう。
部屋の壁の電話のモジュラージャックから接続している場合、VDSL方式というものになるのですが、最大通信速度はどんなに良くても100Mbpsが限度。建物内は電話線なので、ノイズなどにより通信品質が多少劣化します。
さらに、1本の光回線を最大32件で共同利用することになるので、速度はさらに下がります。
#4~7のタイプはいわゆる”ベストエフォート型”とよばれるもので、通信速度について、技術上は様々な条件が整うことで可能ではあるけれども、品質の保証はせずに、最大限(=ベスト)の努力(=エフォート)でサービスを提供するというものです。
(2)どの位の速度が出ていれば良しとするか
ハイビジョン動画はネットの速度が2Mbps程度で十分視聴出来ます。
テレビ会議を快適に行う目安は、最低で1Mbps、ハイビジョン品質ならば2Mbps程度となります。
#実際、YouTubeのデータ量は、下記の通りです。
- 1080p HD : 3.5Mbps
- 720p HD : 2Mbps
- 480p : 1Mbps
- 360p : 500kbps
ユーザー数が少ない個人オフィス/小規模オフィスであれば、最低でも5Mbps程度の速度が出ていれば、何とか我慢できるレベルかも知れませんが、パソコンに加えてスマートフォン、タブレットなど一人で複数台のデバイスを利用するようになり、家電までがネットにつながるようになっている現在、速度は速いに越したことはないことにいなってしまいます。
(3)今のネットの実力を調べてみます
果たして、現在の回線がどのくらいの実力を持っているかを調べておくといいでしょう。
#この時、無線LANではなく、パソコンとルーターを、LANケーブルで直接つないだ状態で計測した方がいいでしょう。
NTT東日本の場合 https://flets-east.jp/ から「フレッツ光 通信速度測定」をクリックします。
「計測スタート」で速度の計測ができます。
上の例はマンションタイプのものなので最大でも100Mbpsとなるのですが、ダウンロードで約6割、アップロードで7割強という数値が出ていますので、ベストエフォートにしてはいい状態にあるようです。
#NTT西日本の場合 https://flets-w.com/support/service/next/sokudo_kaizen/ から「速度測定サイト」へジャンプして計測します。
このスピードで常時利用できればいいのですが、光回線だけではインターネットのさまざまなサービスを利用することはできません。
ホームページや動画を見たり、メールなどを利用するためにインターネットに接続するにはインターネット・サービス・プロバイダー(=ISP)が必要となります。このプロバイダーによって速度が低下してしまう場合もあります。
(4)インターネット接続の実効速度をテスト
そこで、プロバイダーを経由して、実際にインターネットサービスを利用したと想定したスピードを計測してみたいと思います。
ネットスピードのテストサイトはいくつもありますが、その一つとして、Broadband Networking Report=BNR スピードテスト 回線速度/通信速度 測定ページがあります。
http://www.musen-lan.com/speed/speed-img.html (Flashを用いないバージョンです。)
上のページにアクセスして「下り速度テスト開始」をクリックします。
その下部にある「上り」の速度もテストすることができます。
正確な速度測定というわけにはいきませんので、あくまでも目安として。
「(3)まずは今のネットの実力を調べてみます」で計測した速度はダウンロードで62Mbpsでした。それに対して上の画像の結果では59.35Mbps(最高)という速度結果となっていますので、プロバイダーを経由してもさほど速度は低下していない状況のようです。
(5)プロバイダー、回線種別の変更
もしも「(3)まずは今のネットの実力を調べてみます」で計測した速度に対して、「(4)インターネット接続の実効速度をテスト」した結果が遅い場合、自分の環境に適合した、より速いプロバイダーを見つけることができれば、プロバイダーだけを契約変更して、速度向上を図ることも可能となるわけです。
#ソフトバンク光は回線とプロバイダーがセットになっているので、プロバイダーだけを変更することはできません。
プロバイダーごとの速度状況の情報は公開されていないことが多く、口コミなどに頼るしかないのですが、GMOのV6プラスは地域ごとの速度を公開しています。
また、以下の2社も”速度制限がない”ということで、定評があるようです。
さらに抜本的な対策となるのは、回線自体をより速いもの、より条件のいいタイプに変えてしまうことが考えられます。
NTTフレッツ光の場合、個人や小規模オフィスでは、「5,ファミリー・ギガラインタイプ」が現実的な選択になると思いますが、最大通信速度が理論値では10倍となる1Gbpsに変更することで速度向上が期待できます。
この場合、光ケーブルを宅内工事で部屋まで引き込むことになるので、戸建てやビルの配管の状況など、条件が限られてしまいますので、事前に回線事業者にサービスエリア内であるかどうか、建物自体が工事可能かを確認します。
#NTTフレッツ光のホームページでも大まかに確認できますが、電話で確認すれば確実です。Tel:0120-116116
また共同ビル、マンションの場合、オーナー/管理会社などの了承を得る必要があります。
(6)まとめ
以上、回線側の問題について見てきました。ユーザー側で改善策を講じるには、以下のような対応策が考えられます。
- プロバイダーの変更:現在のプロバイダーよりも速いプロバイダーが判れば、変更してしまう。
- 回線種別の変更:「マンションタイプ」から「ファミリー・ギガラインタイプ」等に変更する
- 事業者の変更:NTTから、KDDIのauひかりなどの他の比較的空いていそうな、回線事業者のサービスに変更する。
#さらに、YAMAHAの高機能なルーターなどであれば、「インターネット回線を2本使用し、高速な接続環境を実現」するという方法もあります。
さて、以上、回線/プロバイダーについてみてきましたが、一方でネットワークに接続している機器/配線/構成などの問題もあります。
2,LANに接続している機器/配線/構成などの問題
(1)古いネットワーク機器、ケーブルを一新
ネットが遅いという連絡を受けて、環境を拝見させていただいた際に見受けることがあるのが、古いハブやLANケーブルをそのまま使い続けているというケースです。
古い規格の「カテゴリー5」というケーブルは伝送速度が遅くスピードが制限されてしまいます。
「カテゴリー5e」「カテゴリー6」「カテゴリー7」のような1Gbpsに対応したケーブルに変更します。
#一番安い「カテゴリー5e」でも十分です。
#カテゴリーはケーブルに印字してあるので見分けがつきます。
ネットワーク配線を分配するハブも、今では1000Mbps(ギガビットイーサー)以上が主流となっていますが、古いものだと対応する転送速度が10Mbpsまでにしか対応していないものもあります。
このような転送速度が遅いハブにつないでしまうと、ネットの速度が限定されてしまいます。ケーブルも古いもの、損傷があるものを使うと、さらにスピードをロスしてしまうので注意が必要です。
個人/小規模オフィス向けのハブで、価格性能比がいいモデルはいくつもありますが、本稿執筆時点では、バッファローのLSW5-GT-8NSがオススメです。
(2)無線LANアクセスポイントの規格を再確認
Wi-Fi=無線LANでの接続は、有線での接続よりも速度が遅くなります。無線・有線いずれも高速で接続できるアクセスポイントが望ましいものです。
無線LANの通信規格は複数あって分かりにくいのと、次々に新しい企画が出てきておりわかりにくいのですが、現状でのポイントは、高速で電波の干渉が少ない規格「IEEE802.11ac」に対応しているかどうかです。「11b/11g/11a」などの古い規格にも対応しています。
また無線LANの周波数帯は2.4GHzと5GHzがありますが、両方の通信帯域を同時に使える機種であれば、新しい規格に対応していない機器でも接続して同時に利用することも可能です。
例えば、2.4GHz帯しか対応していない、古いパソコン、プリンター、タブレットと、「IEEE802.11ac」に対応しているパソコンを同じネットワーク内で同時に利用することも可能です。
(3)パソコンが「IEEE802.11ac」に対応しているか
現在主流のPCでは、LANポートはギガビットイーサー=1000Mbpsに対応していることでしょう。しかし、低価格/古めのPCの場合、無線LAN(Wi-Fi)の比較的新しい規格であるIEEE802.11acに対応していないものもまだ多くあります。
この場合、搭載されているWi-Fi部品が対応する規格の最大通信速度に限定されてしまいます。例えば、IEEE802.11bの場合、最大通信速度は11Mbps, IEEE802.11a/gでは54Mbpsとなってしまいます。
せっかく回線は早くても、パソコンに搭載されているネットワーク性能によって速度が制限されてしまうことがあるわけです。
対応しているLAN/Wi-Fiの通信規格については、メーカーのホームページの製品のスペック表で確認できます。
パソコンがIEEE802.11acに対応していない場合にはUSBポートに差し込んで使える子機を用いることで速度アップが見込めます。
(4)機器に適合したネットワーク構成を
リース期間、固定資産の償却期間、業務にとって重要なソフトウェアを使う必要があるなどの理由で、古いシステムを当面は使い続ける必要がある場合、新旧のPCが混在することになります。
また、そもそも、ギガビットイーサー1000Base-TやIEEE802.11acなどの高速通信に対応していないデバイスもあります。
新たにIEEE802.11acに対応する無線LANアクセスポイントを追加で購入した場合、旧来のアクセスポイントは廃棄せず、並行して使い続ける方法もあります。
1台のアクセスポイントに数多くのデバイスをつなげると負荷が大きくなり処理能力が低下します。負荷を分散するためにも、遅い機器は遅いアクセスポイントに、速い機器は速いアクセスポイントにつなぐように切り分けを行うと効率的になります。
(5)まとめ
ケーブルもハブもWiFiルーターもPCも、ネットワーク速度を高めたいならば、回線の最大値に対応した機器にすることが重要です。
”ボトルネック”という言葉があります。ビンの首が細くなっていると、細い首が水が少しずつ出るようになることに例えて、最大通信速度が1Gpbsのインターネット回線を使っていても、つないでいる無線LANアクセスポイントの最大通信速度が54Mbpsしかないと、そこにつながるPCやタブレット、スマホの通信速度は最大でも54Mbpsに制限されてしまいます。
ネットワークの環境を少しでも快適にするには、この”ボトルネック”をいかに防ぐか、排除する事もポイントとなってきます。